信用取引を始めるとき、必ず出てくるのが「追証(おいしょう)」という言葉です。
調べると、だいたいこう書いてあります。
委託保証金維持率が一定の水準を下回ると、追加の保証金が必要になります
間違ってはいないのですが、これを読んでも「で、いくら下がったら発生するの?」が分かりません。僕自身、信用取引を始めてしばらくは、追証を「なんとなく怖いもの」としか認識していませんでした。
なので、自分の口座の数字で実際に計算しました。運用資金は260万円です。
結論を先に書くと、レバレッジ1.0倍なら80%下落まで耐えますが、2.7倍だと17%の下落で追証になります。この差を知らずにレバレッジを上げるのは、かなり危ないと思います。
追証とは何か
一言でいうと、担保が足りなくなったので追加で入れてください、という請求です。
信用取引は、証券会社に預けた保証金を担保に、その何倍かの取引をします。含み損が膨らむと担保の価値が目減りするので、一定のラインを割ると「追加で入金するか、建玉を減らすか、どちらかしてください」と求められます。これが追証です。
期限までに対応しないと、証券会社の判断で建玉が強制的に決済されます。自分のタイミングで損切りする権利を失う、ということです。
定義の話はここまでにして、金額の話に移ります。
計算式はこれだけ
追証が発生するかどうかは、委託保証金維持率という数字で決まります。
維持率 =(委託保証金 − 建玉の評価損)÷ 建玉金額 × 100
分子が「今まだ担保として残っている金額」、分母が「建てているポジションの総額」です。この割合が一定のラインを下回ると追証になります。
最低維持率は証券会社によって違う
法令上の下限は20%です。僕が使っている口座もこの20%が追証のラインになっています。
ただし、これより高く設定している証券会社もあります。以下の計算はすべて維持率20%を前提にしているので、お使いの証券会社の数字が違う場合は読み替えてください。ここは各社の公式サイトで必ず確認してください。
判定は「毎日の終値」で行われる
意外と知られていないのですが、追証の判定は取引時間中にリアルタイムで行われるわけではありません。原則として、各営業日の終値をもとに計算した維持率で判定されます。
つまり、ザラ場中に一時的に20%を割り込んでも、大引けまでに株価が戻っていれば追証にはなりません。逆にいえば、引けにかけて売られると、その日のうちに確定します。
なお判定のタイミングや基準時刻の細部は証券会社によって異なるので、実際の規定はご利用の証券会社で確認してください。
保証金を株式で差し入れている場合は要注意
ここまでは、保証金を現金で差し入れている前提で計算しています。
保有株を担保にする「代用有価証券」で保証金を差し入れている場合、相場が下げると担保の評価額そのものも下がります。分子(保証金)と分母側の損失が同時に悪化するので、現金で入れている場合より維持率の低下が速くなります。
僕は現金で差し入れているので以下の計算はそのまま成り立ちますが、代用有価証券を使っている方は、実際にはもう少し早く追証ラインに届くと考えてください。
実際に計算してみる
僕の運用資金260万円を、そのまま委託保証金として使った場合で計算します。
レバレッジ1.0倍(建玉260万円)の場合
保証金260万円で、260万円分だけ買った状態です。当初の維持率は100%。
維持率20%になるときの評価損は、
(260万円 − 評価損)÷ 260万円 = 20%
評価損 = 260万円 − 52万円 = 208万円
208万円の含み損が出たときに追証です。建玉260万円に対して208万円なので、80%の下落。
建玉と同額の保証金が入っているので、当然といえば当然の数字です。個別株で80%の下落は、不祥事や業績の急変で起こらないとは言えませんが、頻度としてはかなり低い部類でしょう。少なくとも、日々の値動きで追証を心配する水準ではありません。
レバレッジ2.0倍(建玉520万円)の場合
保証金260万円で、520万円分の建玉を持った状態。当初の維持率は50%です。
(260万円 − 評価損)÷ 520万円 = 20%
評価損 = 260万円 − 104万円 = 156万円
建玉520万円に対して156万円の損失なので、30%の下落で追証。
30%となると、決算での急落や地合いの崩れで十分に届く数字です。急に現実味が出てきます。
レバレッジ2.7倍(建玉702万円)の場合
これは僕が一度検討した水準です。当初の維持率は37%。
(260万円 − 評価損)÷ 702万円 = 20%
評価損 = 260万円 − 140.4万円 = 119.6万円
建玉702万円に対して約119.6万円なので、約17%の下落で追証です。
17%です。保有している銘柄が全体で17%下がるのは、相場が崩れれば数日で起こりえます。
まとめると、こうなります
| レバレッジ | 建玉金額 | 当初の維持率 | 追証となる評価損 | あと何%下落で追証 |
|---|---|---|---|---|
| 1.0倍 | 260万円 | 100% | 208万円 | 約80% |
| 1.5倍 | 390万円 | 67% | 182万円 | 約47% |
| 2.0倍 | 520万円 | 50% | 156万円 | 約30% |
| 2.7倍 | 702万円 | 37% | 約120万円 | 約17% |
| 3.0倍 | 780万円 | 33% | 104万円 | 約13% |
※委託保証金260万円、最低維持率20%とした場合の計算です。実際には新規建てに必要な保証金率(30%以上)の制約があるため、レバレッジは約3.3倍が上限になります。
レバレッジを上げるとは「下落耐性を捨てる」こと
この表を作ってみて、自分の理解が間違っていたことに気づきました。
僕はそれまで、レバレッジを上げることを「利益が増える代わりに、損失も増える」と捉えていました。損益が同じ倍率でスケールするイメージです。
でも実際に効いてくるのは、そこではありませんでした。耐えられる下落幅そのものが縮むのです。
1.0倍なら80%まで耐えます。2.7倍だと17%です。耐性が4分の1以下になっています。
損益が2.7倍になるのは想定内です。しかし「17%下げたら、自分の意思とは無関係にゲームが終わる」というのは、まったく別の種類のリスクでした。損失が大きくなるかどうか以前に、そこまで到達する前に退場させられるという話だからです。
僕がフルレバレッジをやめた理由
実は一度、レバレッジ2.7倍での運用を本気で検討しました。資金効率を上げたかったからです。
やめたのは、シミュレーションの結果を見たからでした。
- 追証の発生確率:14.7%
- 資金が半減する確率:32.3%
- そして決定打が、最終資産の中央値が2.0倍のときより低かったこと
3つ目が効きました。リスクが増える代わりにリターンが増えるなら、まだ選択肢として考える余地があります。しかしリスクが増えて、期待できる結果の真ん中もむしろ下がっていた。それなら選ぶ理由がありません。
理屈としては単純で、途中で大きく削られると、そこから元に戻すのに必要な上昇率が跳ね上がるからです。50%減った資金を元に戻すには100%上げる必要があります。レバレッジは、この「削られ方」を加速させます。
→ 関連記事:信用取引の資金管理|1トレードの損失を「資金の2%」に抑えるポジションサイズの決め方
追証を出さないために決めたこと
計算した結果、僕は次の2つを自分のルールにしました。
1. レバレッジは1.0倍を上限にする
同時保有は最大4銘柄、1ポジションは約65万円。合計260万円で、運用資金と同額です。この範囲なら、追証は現実的な検討対象から外れます。
2. 1トレードの損失を資金の2%(5.2万円)に抑える
追証は「1回の大負け」ではなく「損切りできずに膨らんだ含み損」で起こります。損失の上限を先に決めておけば、そもそも維持率が問題になる水準まで到達しません。
そして何より重要なのが、発注と同時に逆指値を置くことです。僕が1日で22万円を失ったときの敗因は、ルールを決めていなかったことではなく、決めたルールの手前で自分の手で決済してしまったことでした。追証の計算をどれだけ丁寧にやっても、損切りが実行されなければ意味がありません。
→ 関連記事:信用取引の損切りルール|「-8%で機械的に切る」を守れずに22万円溶かした話
よくある質問
Q. 追証が発生したらどうなりますか?
証券会社が定める期限(翌営業日など)までに、追加入金するか建玉を決済して維持率を回復させる必要があります。対応しない場合、証券会社の判断で建玉が強制決済されます。期限や手続きは各社で異なるので、口座を開いている証券会社の規定を確認してください。
Q. 追証と強制決済は違うものですか?
違います。追証は「追加の保証金を入れてください」という請求で、強制決済はそれに対応できなかった場合などに行われる処分です。ただし、維持率が著しく低下した場合には追証を経ずに強制決済されることもあります。
Q. 逆指値を入れておけば追証にはなりませんか?
かなり防げますが、万能ではありません。逆指値は「その価格に達したら発注する」仕組みなので、寄り付きで大きく窓を開けて下落した場合、想定した価格では約定しません。損失が想定より大きくなることは普通に起こります。レバレッジを抑えることと、逆指値を置くことは、どちらか一方ではなく両方必要だと考えています。
Q. 現物取引でも追証は発生しますか?
発生しません。追証は、保証金を担保に取引する信用取引に固有のものです。自己資金の範囲内で買う現物取引には、そもそも担保という概念がありません。「追証が怖い」という理由で信用取引を避けるのは、判断として十分に合理的だと思います。
信用取引とNISA(現物)の違いについては、こちらで整理しています。
→ 関連記事:NISAと信用取引の違いは?
Q. 維持率は毎日どこで確認できますか?
各証券会社の取引ツールや口座管理画面に表示されています。含み損を抱えているときほど見たくなくなる数字ですが、見ないことで維持率が改善することはありません。
※この記事の内容は個人の見解であり、投資助言ではありません。計算例は筆者自身の口座条件(委託保証金260万円・最低維持率20%)に基づくものであり、読者の口座で同じ結果になるとは限りません。最低委託保証金維持率、追証の期限、強制決済の条件は証券会社によって異なり、また変更される可能性があります。実際の取引にあたっては、必ずご利用の証券会社の公式情報をご確認ください。信用取引は元本を超える損失が生じる可能性があります。

